初めに
ピアノやギターなどに比べると、チェロは「音程を作るところからスタート」する難しい楽器だと思います。
ですが、同じヴァイオリン族のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを比較すると
「チェロが一番、初心者に優しい」
という声が聞かれます。
私も友人から「チェロって簡単なの?難しいの?」と聴かれたときには、「難しいけど、ヴァイオリンやヴィオラよりは少し簡単だよ。」と言うようにしています。
今回はその理由について、「弾き方」と「楽譜」などの点から、ご紹介したいと思います。
弾き方が「体に優しい」
■楽器の持ち方が、体に優しい
ヴァイオリンやヴィオラは左手で楽器を担ぎ、アゴで楽器を挟みます。
体験された方はわかると思うのですが、最初のうちは体が「苦しい」です。
慣れるまでは、二の腕はプルプルするし、あごや肩が痛くなります。
そう、日常生活にない体の使い方なんです。だから、慣れるまで大変です。
これに対し、チェロは「座って抱きかかえる」だけです。
「ハグ」するだけです。欧米の人なんて、毎日やってますよね。
だから、ヴァイオリンたちに比べると「体に無理をかける部分が少ない」です。
Dvorák: Cello Concerto – Tchaikovsky: Variations on a Rococo theme
また、ヴァイオリンたちの「肩に担ぐ」というのは、高年になると難しくなるとも言われます。
私がヴァイオリンとチェロどちらにするか迷っているときに、
「ヴァイオリンは年を取ると『肩が上がらなくなる』で、弾けなくなる」と言われました。
実際のところ、お年を召してもヴァイオリンを弾いている方はたくさんいらっしゃるのですが、
その時は「確かに」と納得し、長く付き合えそうなチェロを選びました。
■右手のボウイングが、体に優しい
ヴァイオリンたちは、地面に対して垂直に弓を動かします。
これも、体験された方はわかると思うのですが、体を少し「よじって」弾く必要があります。
なので、最初は結構「つらい」です。
ブラームス : ヴァイオリン協奏曲 / ジネット・ヌヴー | アンタル・ドラティ | ハーグ・レジデンティ管弦楽団
これに対して、チェロは、地面に対して並行に弓を動かします。
ちょっと無理がありますが、日常生活で例えると、テーブルをフキンで拭くイメージです。
ですので、体はよじる必要はなく自然体で「まっすぐ」弾くことができます。
■左手のフィンガリングが、体に優しい
音程を決めるのは「指と指」の間隔となります。
チェロの場合は、左手を自然に置くと、だいたい「半音」の間隔で置けます。(1stポジション)
対して、ヴァイオリンたちは、この指の間隔がチェロより狭いため、自然に指を置くだけでは半音になりません。
微妙な間隔に狭めて弾く必要があります。
PERLMAN, ITZHAK/ DUETS FOR TWO VIOLINS
■左手のヴィヴラートが、簡単にかけられる
ヴィヴラートは音色を豊かにするために、左手の指をユラユラさせる動作です。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといったフレットのない楽器のだいご味でもあります。
一般的にヴィヴラートは難しい技術とされています。
以前、ヴァイオリンの方に「チェロってヴィヴラートが超簡単」と言われたことがあります。
確かに、ヴァイオリンの人にチェロを渡すと、簡単にヴィヴラートをかけるのです。
楽譜が「弾きやすい」
楽譜がヴァイオリンより簡単
■オーケストラや四重奏において
ヴァイオリンは「主旋律;メロディ」を受け持ちます。
主旋律は、オタマジャクシがたくさんいて、とても多忙です。
これに対して、チェロは「通奏低音;ベース」を受け持ちます。
オタマジャクシが少なく、楽譜が簡素です。
ですので、初心者にも易しいパートになります。
Symphony No.9, Op.95 (Dvořák, Antonín) (from IMSLP)
■ソロ、ソナタにおいて
また、チェロが主旋律を弾くのソロや、ピアノと合わせるチェロソナタも、ヴァイオリン比べるとチェロは簡単に弾ける譜面が多いとされています。
これは、ヴァイオリンに比べ「チェロの発展が少し遅れたため」と言われています。
比較的早い段階で、いろいろな曲を弾けるのもチェロの良いところです。
楽譜はヘ音記号で馴染みがある
チェロの楽譜の音部記号は基本的に「ヘ音記号」です。
ヴァイオリンの「ト音記号」の知名度には勝てませんが、ピアノをやっている方であれば「ヘ音記号」は馴染みがあります。
対して、ヴィオラはハ音記号(テナー記号)が使われており、ほとんどなじみがないので譜読みに苦労する人が多いです。
とは言え、チェロもある程度上達すると、譜面にハ音記号やト音記号が出没し、苦労することになりますが…。
基本的な音部記号
番外編
チェロが集まると、ほとんど初心者なので和気あいあい
アマチュアオケや大学のオケに入るとわかるのが、チェロパートは「ほとんど初心者」というところが多い。
というのも、チェロはある程度大きくなってから始める人が多い楽器だからです。
対して、ヴァイオリンは3歳からやっていましたとか、どこどこのコンクール出ていましたとか経験者が多いです。
そのため、ヴァイオリンパートには経験者がゴロゴロいますが、チェロには経験者が意外と少ないのです。
やはり、楽器が大きいことがあり小さいころから始める人が少なかったり、先生が少なかったりするので、小さいころから続けている人は少ないです。
そのため、初心者が集まりやすいチェロパートには、「みんなで頑張って上達しよう!」みたいな雰囲気があったりします。
なので、音楽も初心者という私は、チェロから始めて本当に良かったと思っています。
ちなみに、ヴィオラはヴァイオリンを弾いている人であれば、比較的簡単に転向できるそうなので、
「ヴィオラ初心者だけどヴァイオリンやってました」という人もいます。
最後に:あんまり言いたくないのだが、チェロは下手に聞こえづらい
人間は音が高くなればなるほど、音程のずれに敏感となります。
高音楽器のヴァイオリンの場合、音程が少しでもズレると簡単にバレてしまいます。
一方で、チェロの低音弦であれば、ちょっとぐらいズレてもバレないメリットがあります。
書き終わってみると、ヴァイオリンやヴィオラをdisってるように見えますが、そんな意図は全くありませんのでご容赦ください…。